世田谷美術館で開催中の「つぐ minä perhonen」展を訪れた。
ミナペルホネンは皆川明さんが創設し、今年で30年目を迎えた人気ファッションブランドである。
今回のテーマ「つぐ」には、継ぐ、注ぐ、接ぐ、告ぐ、次ぐ、、、と多くの意味を含んでおり、「せめて100年続くブランドを」という創設時の皆川さんの想いが込められている。
展示はテキスタイルのデザイン手法から、刺繍やプリントの製作風景、作り手へのインタビュー、リメイクのデザインへとつながっていく。
各セクションで印象深かったものを紹介したい。

ミナのデザインは、身近なものから創作されているものが数多くある。
写真は色紙の切り絵による図案。右側のは、型抜きなどで余った紙片を使ってデザインされたもの。他にも、消しゴムハンコやマスキングテープ、コピックなどから生まれたものもある。
手が生み出すデザイン。そしてそれを再現する職人の意地ともいえる探求心が素晴らしいテキスタイルを作り上げる。手の痕跡を量産化するために工夫して機械に取り込むことで、独特の「ゆらぎ」のようなものを残している。
建築の世界でも同じようなことをしている建築家がいる。手塚建築研究所の「手塚貴晴+由比」は、手でつくった模型やスケッチをスキャンして図面化し、手の痕跡を忠実になぞりながら職人が再現することで建築にまで反映させる。
初めて聞いた際は理解できなかったが、今ならよくわかる。完璧ではない「ゆらぎ」の中に美しさや柔らかさ、優しさや情緒が生まれる。

続いて、製作のセクション。
刺繍では手書きの図案を拡大し、電子ペンで一点一点なぞることによって機械に座標データとして入力していく。華やかなデザインの裏では職人の手による気の遠くなるような作業と、それを実現するためにデザイナーと職人との綿密なやり取りが繰り返されている。
建築でも何でも、ものづくりの世界では現場が最も重要。最終的にここで全てが決まるのだ。

シルクスクリーンの製作風景。プロジェクターを複数台つなげて、全幅を見せる展示方法も面白い。ここまでして現場のことを伝えたかったのは、職人への敬意と素晴らしい技術を残したい想いがあるからだろう。

インタビューのセクションは撮影不可だったので、最後にリメイクの展示を紹介する。
実際に購入し着用されていたミナの昔の服を新たにリメイクしたものがいくつも展示されている。単にデザインの話だけではなく、服にまつわる持ち主のエピソードとともに紹介されている。
写真はスカートに生地を追加して大胆にリメイクされたもの。他にもワンピースを腰で切ってセパレートにしたものなど、持ち主のお話や服の特性から着想を得て丁寧かつ大胆にデザインされたものが見られる。
ミナは購入した服の修理を依頼することができる。
壊れたら新しく買ってもらうのではなく、「永く、特別な一着としてお楽しみいただくために」との想いから請負っているそうだ。いたずらに消費を促すのではなく、長期的な視点でファンを増やしていく。だからこそ皆に愛されるのだろう。
今回のリメイクは展示用に企画したもののようだが、今後はこういった事業が当たり前に成立する社会になってほしいと思う。
バーバリーの在庫大量廃棄の炎上に始まり、2022年にはフランスで「衣類廃棄禁止令」が施行された。2026年からはEUでも同様の措置が取られる予定だ。
環境問題からの側面が強いが、そうでなくても「ものを大事にするこころ」を失わないようにしなければならない、と改めて思う。

今回の展覧会には、ミナが大切にしてきたことと、それを「つぐ」ために伝えたいことが詰まっていた。
ブランドを誇示するような展示ではなく、何かをつくることへの情熱と探求心、そこに係る人たちへの尊敬と責任、これからの人たちに向けてのメッセージが込められた素晴らしい展覧会だった。
会期は26年の2/1まで。期末は混むと思いますのでお早めに。
書いたひと
宇賀神 亮