西池袋に「自由学園明日館」という学校がある。
近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトが設計した貴重な建築遺産である。
今では重要文化財として動態保存され、一般公開されている。
目白に住んでいたころ、散歩がてらよく訪れていた。
その後も色々と引越したりして頻度は減ったものの、今でもたまに訪れる。
池袋というメガシティに取り残された平屋建ての木造建築は、100年の時を経ても変わらず堂々と、そして穏やかに、この街のなかに佇んでいる。

中庭を中心として左右対称に配置された校舎は、しっかりとした構成美がありながら伸びやかで気持ちがいい。
三角屋根の軒先を延ばして水平ラインを強調するあたりがライトらしい。
緑青色の屋根と黄みがかった漆喰壁、ごつごつした大谷石の基礎がクラシカルな印象を与えている。

内部に入ると驚くほど天井が低い。廊下も狭く、今の小中学校の設計では考えられないほどスケールが小さい。しかし、この小ささが心地いい。
仕上は外壁同様の漆喰と大谷石がベースになっている。

暗がりの廊下を進むと、中央のホールに出る。
光とスケールの操作でこんなにも空間の劇場性を高めることができる。
幾何学模様の装飾は賛否別れるところかもしれないが、実物は写真で見るほど鋭くはない。
装飾を排除してきた近代建築だが、ライトは例外的に装飾を多用する。
最近は、装飾についても風向きが変わってきていて、再評価されているように思う。

喫茶付きの見学チケットを買うと、食堂でお茶を愉しむことができる。
家具は当時の資材難で、板を継いでつくられている。朱色の継ぎ材がいいアクセントになっている。

道を挟んで向かい側には、ライトの弟子の遠藤新が設計した講堂がある。
こちらも耐震等の修繕を経て動態保存されており、本館と合わせて見学ができる。

久しぶりの訪問であったが、訪れるたびに発見や納得がたくさんある。
建築を学び始めて間もない頃に触れたこともあり、私のなかのベンチマークのような存在である。
また何度も訪れることだろう。
書いたひと
宇賀神 亮