ひとりよがりのものさし

 

坂田和實という人をご存知だろうか。

1970年代に、古道具という世界を切り拓いた人だ。

 

それまでもアンティークや骨董はあったけれど、それらは希少なものを扱い、買い手も裕福な人たちだったと思う。

 

坂田さんは、その辺にあるものを、その辺にいる人たちに売っていた。

そこに確かな価値を見出して。

 

茶の湯には「見立て」と呼ばれる文化がある。

籠を花入れにしたり、サラダボウルを茶碗につかったり、道具を本来の使い方に拘らずに、役立てるということである。

坂田さんは、見立てをするように、さまざまなものを自身の眼で測り、世に出していった。

坂田さんの眼にかかれば、その辺に落ちているゴミが美術品になる、と言われたほどである。

 

私はモダンデザインを散々やってきたが、30代も半ばを過ぎてから、古いものの良さが漸くわかるようになってきた。

若い時はアンティークや骨董の色濃さ、毛深さが好きになれなかった。

そんなときに出会ったのが、古道具であり、坂田和實の本だった。

 

坂田さんの著書『ひとりよがりのものさし』は、芸術新潮に連載していた古道具に纏わるコラムをまとめたものだ。

気取らない文体で、世界中から集めてきた古いものを紹介している。なかには、こんなものまで?というものもある。

いつもハッとするし、その純粋さに驚かされる。

 

私たちはどうにも価値を測るものさしに「目盛り」がないと不安らしい。

お金や成績、今だとフォロワーやいいねの数だろうか。

群れで生きる私たちは、社会的な価値と、自分の価値をわけて考えることが苦手なようだ。

 

坂田さんはそんなこと露とも思わず、我が道をゆく。

自分のものさしだけを頼りに、自分の眼と心を信じて。

 

なかなか真似できることではないけれど、社会のものさしと自分のものさしを上手く使いわけながら、本当に大切なものを見失わないようにしたい。

 

 

少し話しは変わるが、この3月に工芸青花のギャラリーがリニューアルされたらしい。

神楽坂の新潮社倉庫にあるギャラリーで、そこに坂田さんが残したものを展示する坂田室がある。

設計は坂田さんと親交の深い、建築家の中村好文さん。

ギャラリーは開館日も増えたようなので、興味のある方はぜひ行ってみてほしい。

 

 

 

“美しさは知識からは見えてこない。自由な眼と柔らかな心がその扉を開く鍵らしい。ムツかしい理論よサヨウナラ。高い品物の中にしか美しいものがないと信じている人、ゴクロウさま。

僕はせいぜい寝っころがりながら、自分のモノサシに油を塗り、使い込んで柔らかくして、何んともない身のまわりの工芸品から美しいものを選択して行こう。それは又、自分自身を確立し、歩こうとする道を明らかにすることでもあるはずだ。”

 

『ひとりよがりのものさし』坂田和實 -まえがきより抜粋

書いたひと

宇賀神 亮