ASUの建築旅2日目です。
八戸から宮城県石巻市へ向かいました。
古川駅からレンタカーで1時間ほど走り、最初の目的地「マルホンまきあーとテラス」に到着。

こちらは藤本壮介さん設計の複合文化施設です。ホール、博物館、ギャラリーなどが入っています。
前日に行った八戸市美術館と真逆で、プログラムを曖昧に覆い隠すような家形の連続による外観。山を背景に白い家形が並ぶ風景は街のランドマークとしてもインパクト充分です。

エントランスから中に入ると、ロビーが横に繋がっており、約170mの家形の連なりのなかを歩くことができます。単純な形とスケールの操作による複雑な組み合わせが、光とヴォイドの変化に富む新しい空間を生み出していました。なかなか体験したことのない空間でした。
サインや照明がいい意味でかっこつけ過ぎず、抽象度の高い空間に煩雑さを与えることで親しみやすさ、多様性を受け入れるおおらかさに貢献しているように思います。

ホールの2階席に向かう階段。階段自体も勾配が緩く幅も広いので単なる動線としてだけでなく、ホワイエとしても機能するのでしょう。
空間のプロポーションと窓や建具のアンバランスさが面白い。

階段を上ったホワイエ部分。徐々に抽象度が高くなり、静けさが劇場に入る前のいいクールダウンになりそうです。どことなく宗教建築のような趣もあります。光の雨粒のような照明が可愛らしい。

長いロビーには、内装の色使いや照明器具、家具などの違いでいくつかの小さなコモンのような場所が生まれていました。旧来のラウンジと廊下というような明確な図式から、動線でもあり溜まり場でもあるような線引きのない、緩やかなつながりが施設全体を通して見られ、藤本さんの話されている複雑性や多様性の話が腑に落ちた気がします。
凛として息をのむような建築も緊張感があって好きですが、藤本建築のようなおおらかさは今の時代に合っているのかなと思いました。

その後は市街地に移動して北上川沿いで海鮮ランチを楽しみました。左に見えるドームのような建物はサイボーグ009などで知られる漫画家、石ノ森章太郎さんの「石ノ森萬画館」だそう。今回は時間の都合で入りませんでした。

川沿いには萬代基介さん設計の東屋がいくつか建てられていて、地元の人の休憩場所になっていました。川沿いを歩いて散歩する生活も楽しそう。
自然でも建築でも街のシンボルを持っている場所は、住民のアイデンティティが高まりコミュニティの強度も上がる気がします。

最後に寄ったのは、「石巻工房」のゲストハウス「Ishinomaki Home Base」
石巻工房は311をきっかけに始まった家具ブランドですが、復興のための材料支援やDIY技術の支援から始まり、国内外のデザイナーが関わることで世界中に知られる存在になりました。
こちらはその石巻工房が運営しているゲストハウスで、ラウンジは宿泊者以外も使用できます。
それぞれ温かい飲みものを頼んで、ほっと一息つきました。

一見シンプルな家のように見えますが、幅広の木製建具や配線ダクトが片持ちになっていたり、手摺子が紐になっていたり、よく見ると凄いことをさらっとやっています。
石巻は他にも震災の遺構や復興のプロジェクトがいくつもあるので、またゆっくりと訪れたいと思います。
さて、帰りは少々の渋滞。新幹線の時間が迫り焦りながらもぎりぎり乗車でき、無事に宇都宮に帰ってこられました。
今回の旅は少し急ぎ足で色々とトラブルもありましたが、水曜どうでしょう的な楽しさもあり大満足な旅になりました。
来年もまたASUの活動を続けていきたいと思いますので、見守っていただけたら嬉しいです。
参考文献:「新建築2021年7月号」
書いたひと
宇賀神 亮