
永野川という川がある。
私の故郷、栃木市に流れる川だ。
2019年の台風19号によって氾濫し、川岸をコンクリートで覆われてしまった川。
川の氾濫により多くの家屋が浸水による被害を受けた。私の祖父母の家も床上浸水に見舞われた。
私は建築士として、県職員と一緒に被災された家屋を一軒一軒廻り、被災状況の確認と行政窓口の案内をしていた。
街なかは家屋から流された家具やゴミが散乱し、アスファルトは泥に塗り替えられていた。
そんな状況を目の当たりにしていても、今のコンクリートで覆われた川を見るのはつらい。故郷の風景と呼べるものはもう、そこにはない。
復旧を急ぐあまり、冷静な判断を失っていたのではないだろうか。
最近、高田広臣さんの『土中環境』という本を読んだ。
目に見えない土の中に、水と空気が循環しなければ土は保有力を失い、緑は枯れ、山は崩れる。そして崩れた土砂が川に流れ込む。
その一因が、巨大な土木構造物やコンクリートで土を覆ってしまうことによる呼吸不全である。
そして抑えきれなくなった呼吸が一気に噴出し災害になる。
今、地球規模で頻発している気象災害の多くは、地球が呼吸できなくなったことで起こっている(怒っている)のである。
高田さんは、現代の力学に頼りきった土木造作に警鐘をならしている。
力で抑え込めば、やがて力で押し返される。
「復旧」ではなく、「安定する環境の再生」が必要だと説く。
機械がなかった時代は力の弱い人間ができることは限られていた。だから、自然の治癒力を信じて、環境を安定させるための手助けをしていたのだ。
本のなかでは、先人の智慧としての古来の土木造作、弱ってしまった環境の再生手法なども紹介されている。
信玄堤や、熊野古道の石畳など、自然と対立しない解決法を見直す時分である。
さいわい、土木に限らず多くの分野で、近代が置き去りにしてきた先人の智慧や技術に目を向けようとする動きがあるように思う。
早急に、局所から全体を見る視点を取り戻さなければならない。
「景観十年、風景百年、風土千年」
未来のために何を残せるのか、今、問われているのである。
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おまけ

栃木市には移住の話を聞きに、先輩に会いに行っていた。
寺尾という集落で空き家をリノベして住まわれている。
田舎暮らしの良さや難しさを色々とお聞きすることができた。
最近は、ご夫婦で金曜日限定の菓子とお茶のお店「さと」を始めたそう。
ほかにも、味噌をつくったり、竹籠を編んだり、生活を楽しんでいるようで何より。
次は椅子をつくりたいと話されていた。
まだまだ興味は尽きないようす。
久しぶりにお会いできて嬉しくなった。
書いたひと
宇賀神 亮