先日、ASUのイベントの打合せで、那須塩原市の空き家担当の方とお話する機会があった。
那須塩原市では現在、約3,000件の空き家があり、うち60%は利活用可能だという。
街を歩けば空き家や改装工事中の建物がちらほらと目に入るような状況であった。
帰宅後改めて調べてみると、日本全国では900万戸を超える空き家があるという。
総住宅数6,500万に対して実に13.8%が空いている状態である。
しかし空き家問題は今に始まったことではない。
私が学生だった20年前も既に盛んに議論されていたし、私も隣の研究室の活動に同行して静岡県南伊豆町の空き家調査などを行ったりしていた。
つまりずっと解決策を見出せず、ただただ空き家が増えていくばかりということである。
「なぜ空き家が増えてしまったのか?」
これには人口減少などの社会的な側面、相続や税金など制度的な側面、市場価値の低迷による経済的な側面、様々な要因が考えられる。
しかし私が建築を生業とするなかで思うところは、「古いものに魅力を感じる価値観の欠乏」である。
多くの人は「時代が進むほどいいものができる」という近代的な価値観に捉われ、新しいものの価値が一番高く、時間とともに価値は下がっていくものと思われていないだろうか。
確かに時間によって価値は変化するものである。しかし本当に価値あるものは、時間を増すごとに価値が高まるものである。
柳宗悦は著書『茶の美』のなかで、「渋み」や「味」という日本人の特異な嗜好について言及しており、古いものを誰もが評価できる言葉を持つ稀有な民族であると評している。
我々は元来、「侘び寂び」のような何とも表現し難い美意識へと通ずる感性を持ち合わせているのである。
今後、物価の上昇につれて中古に目を向ける流れが強まり市場は大きくなると思われるが、また同時に、「中古は安いから」という理由で大きくなるのは危険である。
まずは「古いものの価値を評価する」ことが先決だ。
そこで以下に古いものを評価するポイントを整理してみた。大きく3つの指標が挙げられる。
1.物語の価値
ものの辿ってきた歴史、運命、所持してきた人物などを評価する。
2.時間の価値
ものに刻まれた時間の変化。変色したり傷がついていたり、人為的に操作できないものへの評価。
3.文化の価値
現代では再現できない、先人の智慧や失われてしまった技術など、再現が困難なものへの評価。
この3つの軸から古いものを評価していくことで、そこに魅力を見出すことが可能になる。そして評価を続けることにより、古いものの価値を見極める「眼」を持てるようになるのではないだろうか。
一方で我々建築関係者にとっても、「つくる時代からつかう時代へ」の価値観の転換が必要である。
住宅産業研究の第一人者である松村秀一氏は「空き家を問題と捉えず、空間資源だとプラスに捉えるべき」だと話されていた。
資源の乏しくなった日本において、活用可能性のある貴重な資源が豊富にあると思えば、これ以上ない贅沢な状況である。
この資源を資産に変えることができるかが、未来の暮らしを豊かにする鍵になる。
その手段として、リノベーションを積極的に選択していくべきである。
設計者の立場からすると、リノベーションは「創作」というよりは「編集」をしている感覚に近い。
新築のように新たなものを創造する楽しさとはまた違う、空間を探りながら再構築するという別の楽しさ、面白さがある。
そして新築にはない「古いものの価値を含む」ことで、リノベーションならではの味わい深い空間が生まれる。
また「計画して施工する」という従来の手順ではなく、「やりながら考える、現場を見て変えていく」という手法もアジャイル型の現代社会にマッチするものと思う。
空き家と一言で言っても状況が一戸一戸まったく違う。
当然すべての空き家が魅力あるものになるかというと、そう簡単ではないだろう。
しかし埃まみれの原石がごろごろあると思うと、設計者としてはわくわくせずにはいられないのである。
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冒頭の那須塩原市でのASUのイベント「建築士と珈琲時間。」vol.3では空き家のリノベーションの提案をします。
10/4(土)13:30~、16:00~ @ゲストハウスLeu.
珈琲を飲みながら建築について、ゆるく語らうイベントです。
ご興味のある方は、お気軽にご参加いただければ幸いです。
書いたひと

宇賀神 亮